大嫌い同士の大恋愛
17.こんな時くらい
ため息をつきながら、トボトボ、と、マンションまで一人歩いて行く。
聖は、何やら仕事が押しているようで、総務部をのぞいたら、先に帰っていてくれと言われた。
片桐さんは、今日の会議の報告書をまとめているようで、残業らしい。
――ごめんね。さすがに、コレを放置して帰れないよ。
申し訳無さそうに言われたが、当然の事なので、不満など無い。
――ていうか、そういう時は、不満そうにするものなのかしら?
俗に言う、仕事とワタシと、どちらが大事、というものを表さないといけないんだろうか。
まあ、そんな面倒な事は考えたくないので、素直にうなづいたが。
そんな事を考えていれば、一瞬のようにマンションに到着。
エレベーターを待っていると、不意に、後ろに気配を感じ、振り返った。
「――……何でしょうか」
無言でロビーの自販機の陰から、こちらをうかがっている女性が見えたので、ひとまず声をかけてみる。
けれど、この前の二人連れではないというのは、口元のほくろでわかった。
かすかに記憶に引っかかった気がするが、思い出せないのは、大した接点も無いからだろう。
静まり返ったロビーに、エレベーターの到着音が鳴り響き、そして、箱の扉は静かに開いて閉じる。
それを合図にか、彼女は口を開いた。
「……江陽くんは、あたしのものなのに」
「――は?」
一歩ずつ近づいてくる彼女の気配に、本能的に背筋が凍る。
――ストーカーみたいになっちゃった女子も、いっぱいいたんだって――。
――”今夜は、部屋にいる?”
この前の聖の言葉と、スマホに覚えのないメッセージが届いたと怯える江陽が、脳裏をよぎった。
ジリジリと距離を詰められ、私は、彼女の視線から逃れられない。
見た目は本当に、”普通”の同じくらいの年の女性。
セミロングの黒髪に、地味なメイク、シンプルなスーツ、疲弊した靴。
一瞬、自分を見ているような錯覚を起こしそうだった。
なのに、纏っている雰囲気が、何かおかしい。
「――江陽くんを、返しなさいよ!」
「……はぁ……??」
思わず眉を寄せた私は、声を荒らげながら、勢いよく掴みかかってきた彼女に、不意を突かれ――一瞬で、首を絞められた。
――……え??
間近に見えた彼女の怒りに歪んだ表情に、そうか、と、妙に納得してしまった。
この人が――江陽のスマホに、メッセージを送った張本人。
そして、どこからか、私がヤツの彼女だとか、聞いたんだろう。
誤解している、と、いったところで、こういった手合いは聞く耳持つはずが無い。
冷静になってくる脳内とは対照的に、だんだんと呼吸が苦しくなってくる。
女の細腕だろうが、こんな時は火事場の馬鹿力というものが出るんだろう。
もがこうとしても、腕すら上がらない。
――ああ、私、江陽のせいで、死ぬのかしら。
――最初から最期まで、アイツのせいで、ロクなことが無い人生だったわね――……。
遠くなっていく意識の中、そんな事が、頭をよぎった。
聖は、何やら仕事が押しているようで、総務部をのぞいたら、先に帰っていてくれと言われた。
片桐さんは、今日の会議の報告書をまとめているようで、残業らしい。
――ごめんね。さすがに、コレを放置して帰れないよ。
申し訳無さそうに言われたが、当然の事なので、不満など無い。
――ていうか、そういう時は、不満そうにするものなのかしら?
俗に言う、仕事とワタシと、どちらが大事、というものを表さないといけないんだろうか。
まあ、そんな面倒な事は考えたくないので、素直にうなづいたが。
そんな事を考えていれば、一瞬のようにマンションに到着。
エレベーターを待っていると、不意に、後ろに気配を感じ、振り返った。
「――……何でしょうか」
無言でロビーの自販機の陰から、こちらをうかがっている女性が見えたので、ひとまず声をかけてみる。
けれど、この前の二人連れではないというのは、口元のほくろでわかった。
かすかに記憶に引っかかった気がするが、思い出せないのは、大した接点も無いからだろう。
静まり返ったロビーに、エレベーターの到着音が鳴り響き、そして、箱の扉は静かに開いて閉じる。
それを合図にか、彼女は口を開いた。
「……江陽くんは、あたしのものなのに」
「――は?」
一歩ずつ近づいてくる彼女の気配に、本能的に背筋が凍る。
――ストーカーみたいになっちゃった女子も、いっぱいいたんだって――。
――”今夜は、部屋にいる?”
この前の聖の言葉と、スマホに覚えのないメッセージが届いたと怯える江陽が、脳裏をよぎった。
ジリジリと距離を詰められ、私は、彼女の視線から逃れられない。
見た目は本当に、”普通”の同じくらいの年の女性。
セミロングの黒髪に、地味なメイク、シンプルなスーツ、疲弊した靴。
一瞬、自分を見ているような錯覚を起こしそうだった。
なのに、纏っている雰囲気が、何かおかしい。
「――江陽くんを、返しなさいよ!」
「……はぁ……??」
思わず眉を寄せた私は、声を荒らげながら、勢いよく掴みかかってきた彼女に、不意を突かれ――一瞬で、首を絞められた。
――……え??
間近に見えた彼女の怒りに歪んだ表情に、そうか、と、妙に納得してしまった。
この人が――江陽のスマホに、メッセージを送った張本人。
そして、どこからか、私がヤツの彼女だとか、聞いたんだろう。
誤解している、と、いったところで、こういった手合いは聞く耳持つはずが無い。
冷静になってくる脳内とは対照的に、だんだんと呼吸が苦しくなってくる。
女の細腕だろうが、こんな時は火事場の馬鹿力というものが出るんだろう。
もがこうとしても、腕すら上がらない。
――ああ、私、江陽のせいで、死ぬのかしら。
――最初から最期まで、アイツのせいで、ロクなことが無い人生だったわね――……。
遠くなっていく意識の中、そんな事が、頭をよぎった。