大嫌い同士の大恋愛
部屋まで江陽に抱きかかえられ、聖が、代わりに持った私のバッグから部屋のカギを取り出して、ドアを開ける。
緊急事態なので、江陽が入って来る事に、この際、文句は言えない。
「羽津紀、ベッドで休んでて。何か、いるものある?それか、お医者さん行く?」
オロオロと、江陽に抱えられたままの私の周りをうろつく聖に、苦笑いで首を振った。
「――大丈夫よ。……江陽が、タイミング良く来たから……たぶん、そんなにダメージは無いと思う」
「でも」
「大体、どう説明する気?首絞められました、診てください?一発で通報されるわよ?」
「……そうだけど……」
シュンと肩を落とした聖に、私は、無理矢理口元を上げてみせる。
「アンタも、早く休んで。――とんでもない場面、見ちゃったんだし」
「……羽津紀」
「ホント、タイミング悪かったわね。――ああ、一緒にいたのかしら?」
自分で軽口のように言った言葉が、自分の胸を刺す。
その痛みは、徐々に、見て見ぬふりができなくなっている気がした。
けれど、聖は、勢いよく首を振って否定する。
「違うよ。アタシは、普通に会社から帰って来たトコだし――」
「オレは、出先から帰ったトコだ。たまたま、そこで会った」
そう江陽が続けながら、部屋を見回した。
「――何よ」
「いや、部屋の造りは一緒か。ベッドはそっちか」
「……もう、いいから下ろしてよ。後は自分で――」
江陽は、部屋の奥の引き戸に視線を向けると、聖に言う。
「聖、開けてくれ」
「ハーイ!」
「ちょっ……や、やめないさい、聖!」
ベッドルームなんて、プライバシーの塊のような部屋、江陽に見せるんじゃない!
そう叫びたかったが、既に遅く。
聖は、あっさりと引き戸を引くと、江陽を見上げる。
「江陽クン、今日は、絶対、襲っちゃダメだからね」
「「はあ!!??」」
そう、真剣にバカな事を言い出した聖に、ヤツと二人で目を剥く。
けれど、それに構わず、彼女は続けた。
「大体、羽津紀も、ヘンな気を遣わないでよねー!」
「え」
「アタシ、江陽クンに振られたけど、それは、羽津紀には関係無い事なんだってば」
「ひ、聖」
「だから、片桐さんと付き合うとか、早まっちゃダメだよ!」
「――え」
瞬間、私を抱いていた江陽の腕が強張った。
「――何だよ、そりゃ」
動揺を隠さず、ヤツが私を見下ろす。
「……何って……言葉の通りだけど」
「付き合う、って、片桐班長と?」
「だから、そう言っているわよ」
「――……っ……」
淡々と返す私を、江陽は、少し手荒くベッドに投げると、そのまま踵を返した。
「――……帰る」
そう、言い捨て、すぐにドアが強く閉じられる。
「……羽津紀」
「――気にしないで。……そもそも、私が誰と付き合おうが、アンタ達には関係無いでしょ」
「――……でも」
私は、ベッドのそばで戸惑っている聖を見上げた。
「――私は、自分の選択が間違っているとは、思ってないから」
「……そう……」
視線を下げた聖は、かすかにうなづくと、私に背を向けた。
「……帰るから、カギ、ちゃんとかけてね。……何かあったら、すぐに連絡だよ……」
「ええ。――本当に、ありがとう、聖」
聖は、コクリ、と、うなづくと、部屋を後にした。
その気配を見送ると、私は、そのまま、天井を見上げる。
急なコトに、頭がついていかない。
――でも、確かなのは、この件を公にしたら、確実にコラボ企画は頓挫する。
――そして、会社も、大ダメージを受けるだろう。
そう思うと、訴える事はできない。
悔しいけれど――会社がつぶれるような真似をする訳にはいかないのだ。
――こんな時くらい、と、思うが――そう考えるのが、私なのだ。
緊急事態なので、江陽が入って来る事に、この際、文句は言えない。
「羽津紀、ベッドで休んでて。何か、いるものある?それか、お医者さん行く?」
オロオロと、江陽に抱えられたままの私の周りをうろつく聖に、苦笑いで首を振った。
「――大丈夫よ。……江陽が、タイミング良く来たから……たぶん、そんなにダメージは無いと思う」
「でも」
「大体、どう説明する気?首絞められました、診てください?一発で通報されるわよ?」
「……そうだけど……」
シュンと肩を落とした聖に、私は、無理矢理口元を上げてみせる。
「アンタも、早く休んで。――とんでもない場面、見ちゃったんだし」
「……羽津紀」
「ホント、タイミング悪かったわね。――ああ、一緒にいたのかしら?」
自分で軽口のように言った言葉が、自分の胸を刺す。
その痛みは、徐々に、見て見ぬふりができなくなっている気がした。
けれど、聖は、勢いよく首を振って否定する。
「違うよ。アタシは、普通に会社から帰って来たトコだし――」
「オレは、出先から帰ったトコだ。たまたま、そこで会った」
そう江陽が続けながら、部屋を見回した。
「――何よ」
「いや、部屋の造りは一緒か。ベッドはそっちか」
「……もう、いいから下ろしてよ。後は自分で――」
江陽は、部屋の奥の引き戸に視線を向けると、聖に言う。
「聖、開けてくれ」
「ハーイ!」
「ちょっ……や、やめないさい、聖!」
ベッドルームなんて、プライバシーの塊のような部屋、江陽に見せるんじゃない!
そう叫びたかったが、既に遅く。
聖は、あっさりと引き戸を引くと、江陽を見上げる。
「江陽クン、今日は、絶対、襲っちゃダメだからね」
「「はあ!!??」」
そう、真剣にバカな事を言い出した聖に、ヤツと二人で目を剥く。
けれど、それに構わず、彼女は続けた。
「大体、羽津紀も、ヘンな気を遣わないでよねー!」
「え」
「アタシ、江陽クンに振られたけど、それは、羽津紀には関係無い事なんだってば」
「ひ、聖」
「だから、片桐さんと付き合うとか、早まっちゃダメだよ!」
「――え」
瞬間、私を抱いていた江陽の腕が強張った。
「――何だよ、そりゃ」
動揺を隠さず、ヤツが私を見下ろす。
「……何って……言葉の通りだけど」
「付き合う、って、片桐班長と?」
「だから、そう言っているわよ」
「――……っ……」
淡々と返す私を、江陽は、少し手荒くベッドに投げると、そのまま踵を返した。
「――……帰る」
そう、言い捨て、すぐにドアが強く閉じられる。
「……羽津紀」
「――気にしないで。……そもそも、私が誰と付き合おうが、アンタ達には関係無いでしょ」
「――……でも」
私は、ベッドのそばで戸惑っている聖を見上げた。
「――私は、自分の選択が間違っているとは、思ってないから」
「……そう……」
視線を下げた聖は、かすかにうなづくと、私に背を向けた。
「……帰るから、カギ、ちゃんとかけてね。……何かあったら、すぐに連絡だよ……」
「ええ。――本当に、ありがとう、聖」
聖は、コクリ、と、うなづくと、部屋を後にした。
その気配を見送ると、私は、そのまま、天井を見上げる。
急なコトに、頭がついていかない。
――でも、確かなのは、この件を公にしたら、確実にコラボ企画は頓挫する。
――そして、会社も、大ダメージを受けるだろう。
そう思うと、訴える事はできない。
悔しいけれど――会社がつぶれるような真似をする訳にはいかないのだ。
――こんな時くらい、と、思うが――そう考えるのが、私なのだ。