大嫌い同士の大恋愛
 私達は、呆気にとられたまま、江陽を見送ると、しばし放心状態。

「――……さすがに……ショックだったのかな……」

 片桐さんが、気まずそうに、ヤツが出て行ったドアを見やると、私に視線を向けた。
「そ、そう言われましても……」
 元々知っていた事じゃないのか。

 ――私は、江陽なんて、大嫌いなのだ。

 そう、自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。

 ――私は――アイツのせいで、人生狂ったんだ。

 ――……アイツのせいで――。


 ――……なのに――何で、こんなに罪悪感を覚えてしまうんだろう。


「羽津紀」

 すると、不意に聖の手が頬に触れた。
 私が顔を向けると、困ったように眉を下げられる。
 ああ、まったく、何をどうしても綺麗だわ。
 そんな風に見惚れていると、聖は私の頬をこする。

「聖?」

「もう、意地っ張りもいい加減にしようよー」

「え?」

 ――何が、意地っ張りよ。

 そう思い、顔をしかめると、聖は、諭すように私に言った。

「――後悔してるんでしょうー?江陽クンに言ったコト」
「だっ……誰がっ……!」
「じゃあ、何で泣いてるの?」
「え」

 ――泣いてる?

 ――私が?

 そう思い、聖の手と反対の頬に手を触れる。
 そこには――覚えの無い水滴。

「羽津紀さん」

「……片桐さん」

 すると、向かいに座っていた片桐さんが、真剣な表情で問いかける。

「どうする?――このまま、彼と縁を切る?」

「――……どうする、と、言われ……ましても……」
 

 ”大嫌い”

 ――何度も何度も言っていたはずなのに――


 いざ、自分が言われたら――こんなにショックなのが――ショックだ。


 まるで、江陽に言われたから、悲しくなったみたい。


 その思いに、フタをするように、首を振った。

「――今さらです」
「そう。――じゃあ、その上で、提案」
「ハイ?」
 片桐さんは、私の左手を取った。


「――キミの身の安全を保つためにも――僕と、同棲しませんか」
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