大嫌い同士の大恋愛
 ようやく大人しく隣へ帰った聖を見送ると、私は、片桐さんを振り返った。

「……あの……本当に、良いんでしょうか」

「何が?」

「いえ、あの……同棲、というか……」

「僕から提案したんだよ?良いに決まってるけど――羽津紀さんこそ、本当に良いの?」

「え?」

 キョトンとした私を、彼は、そっと抱き締めた。
「か、片桐さんっ……!」
「同棲ってなったら、三ノ宮くんのダメージ、修復不可能かもしれないよ?」
 その問いかけに、言葉を飲み込んだ。

 ――江陽は――……。

 ――もう、嫌いに――大嫌いになるって言ったのだ。

「良いんです。――元々、天敵のようなものだったんですし」
「まあ、キミの男嫌いは、彼が原因って言ってたしね」
 そう言って、片桐さんは、私の髪を撫で――頬に手を滑らせる。
 その感触に、目を閉じつつも、肩が跳ね上がる。
「――でも、僕には、こうやって身を委ねてくれている」
「え、あ、あの」
「それが、男にとって、どれだけ興奮するものか――知ってる?」
 彼には、あまりそぐわない言葉に、目を開けようとするが、その前に唇が重ねられる。
「――ん」
 その感触に、全身が反応をしてしまい、私は、必死で彼の服を握り締めた。

「――……同棲しても、しばらくは我慢しようと思うけど――」

 一旦唇を離した片桐さんは、そう言うと、更に深く――私の舌に自分のものを絡ませてくる。

「――ん、んっ……っ……!」

 唾液が交じり合う音が、耳に響き、羞恥で泣きそうだ。

 ――なのに――何で――……。

「――っ……はっ……」

 呼吸が苦しくなり、無理矢理彼から逃れるが、すぐに両頬を捕らえられる。
「ダメだよ――そんな、いやらしい顔見せたら」
「やぁっ……」
 涙でにじんできた私の目に、欲を映した片桐さんの目が映る。

 そこには――まるで、陶酔したような表情の、自分が見えた。


 ――うそ。
 ――ヤダ。

 ――こんなの――私じゃない!


 呆然とした私をなだめるように、片桐さんは、頬にいくつもキスを落としてきた。
「良いんだよ、それで」
「で、も……」
「こんな表情(かお)も、できるんだね」
 うれしそうに言う彼を突き放せず、そのまま、更に唇を重ねる。
 時間の感覚が無くなるほど、長く深いキス。
 ようやく離されると、快感が勝っているのか、全身が疼いてしまっている。
 それを悟られたくなくて、私は、ごまかすように片桐さんにしがみつく。
「羽津紀さん」
「やぁんっ……!」
 耳元で名前を呼ばれ、反射で声が上がってしまった。
 我に返り、手で口を塞ごうとしたが、それは片桐さんに止められる。
「聞かせて」
「やっ……ダメっ……!」
 いやいやをするように、首を振ると、彼は、そこに口づけようとし――固まった。
< 92 / 143 >

この作品をシェア

pagetop