大嫌い同士の大恋愛
 ようやく、片桐さんのキス責めから解放された私は、その場にへたり込むと、彼を見上げる。
「……あのっ……同棲の件ですがっ……あまり、こういう事は……」
 こんな風にされたら、普通の恋人のようではないか。
 そしたら――聖の言うように、なし崩し的に結婚までいきそうな気がして、急に後悔が頭をもたげてきた。
 片桐さんは、ニコリと、穏やかに微笑むと、しゃがみ込んで私と視線を合わせる。

「だから、言ったよね?――僕は、そのつもりだって」

「――……っ……」

「同棲だって、キミが同意したんだし。――キスも、嫌なら、突き飛ばせば良いだけだよ?」

 私は、ジロリと彼をにらむ。

「ズルいですよね、片桐さん」
「名前は?」
「――そういう関係になったら、です」
「その可能性は?」
 平然と問いかけてくる彼は、どこか楽しそうだ。

「……今現在、それどころじゃありませんので」

「じゃあ、地道にいくとしますか」

 立ち上がった彼は、私を見下ろす。
「まずは、物件探しからだね。――羽津紀さん、希望があれば、明日までにまとめておいて」
「え、あの」
「もたもたしても、いられないよね?何せ、まだ、立岩さんは、あきらめていないんだから」
 私は、その言葉に、こうなった原因を思い出す。
「……承知しました」
「仕事かな?」
「仕方ないでしょう。……それに、片桐さんも、仕事みたいな言い方でしたが」
「ゴメン、自覚無しだった」
 お互いに肩をすくめて苦笑い。
 ――こういう空気は、悪くない。
 同棲したら、こんな風に、暮らしていくんだろうか――。

 そう思ったが、それ以上が想像つかない。

 それは、やっぱり――私が、恋愛的に彼を見ていないという事なんだろうか――……。
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