大嫌い同士の大恋愛
21.そんな程度ではない
 翌日、聖と一緒にマンションから出ると、片桐さんが、もう、いつもの場所と言える、門の前でスマホを眺めながら待っていてくれた。

「おはようございます、片桐さん」

「――おはようございます」

「おはよう、羽津紀さん、久保さん」

 若干ふてくされている聖を、眉を下げながら見やると、彼は、挨拶をしながら私の隣で歩き出した。
「羽津紀さん、昨日の件、考えてくれた?」
「――え」
「場所の希望」
 私は、少しだけ考え、首を振った。
 そもそも、考える余裕も無かったが、正直に言うのも気が引けた。
「……いえ、あの、こちらは地元というほどでもないので……片桐さんの方が、お詳しいのでは」
「うーん、まあ、詳しいほどじゃないけど、キミよりは長く住んでいるからね」
「ひとまず、お任せします。候補があれば、お聞きしますが」
 そんな風に話していると、聖がふてくされたまま言う。
「何か、二人、仕事の話してるみたいー」
「仕方ないでしょう。――そんな急に、恋人同士のような会話はできないわよ」
 こんな風になるまでは、片桐さんとは、仕事上の会話しかした事はなかったのだ。
「心配いらないよ、久保さん。羽津紀さん、二人きりの時は、とても可愛いから」
「かっ……片桐さん‼」
 クスクスと笑う彼を、私は、にらみ上げる。
「真っ赤だよ、羽津紀さん?」
「……いい加減にしましょう」
「ハイハイ」
 そんな私達のやり取りを、聖は、不本意そうに眺めると、一歩先に歩き出す。
「あーもうっ!……何か、急に恋人感出してきて、腹立つー!」
「聖」
 そもそも、そういう頼みが発端なのだ。
 片桐さんだって、わかっているはず。
 そう思い、彼を見やれば、穏やかに微笑まれた。

 ――でも、昨日の彼を思い出すと、何だか、弱みを握られたように感じてしまう。


「――あ、江陽クンだ」

 すると、見えてきた会社の正門前に、江陽の姿が見え、私は、ギクリ、と、身体を強張らせた。
「おはよー、江陽クンー!」
 聖は、私達を置いて、ヤツのところに駆け寄る。
「――おう」
 すると、江陽は、聖の後ろにいた私達に視線を向けるでもなく、そのまま二人で社屋に入って行った。

 ――何、それ。

 ――大嫌いになる、って――もう、完全に他人になるって事なの。

 私は、感じたモヤモヤをそのままに、二人の後について行くように中に入った。
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