大嫌い同士の大恋愛
 企画課に到着すると、私は、片桐さんと共に神屋課長のところに向かった。
「おや、おはよう、ご両人」
「おはようございます」
 片桐さんと二人で挨拶し、お互いに視線を向け合う。
 それに気づいた課長は、ニコリ、と、笑うと、視線を入り口に向けて立ち上がる。

「――で、何か報告?相談?」

 スタスタと歩き出し、あっさりと部屋の外に出た課長は、ついて来た私達を振り返り尋ねた。
「――あ、あの……」
「名木沢さん、僕から言うよ」
「おや、何、結婚でもするの、キミ達?」
 私は、茶化すように言う課長を睨みつけるが、片桐さんに背中を軽く叩かれ、息を吐いた。
 それにうなづいた彼は、本題に入った。

「――課長、これからお話する事は、他言無用でお願いします」



 一通り話し終え、課長を見やれば、眉間のシワが、これ以上無いくらいに深く刻まれていた。
「――あの……課長……」
「いや、にわかには信じられないけど……キミ達が、そんな冗談言うワケが無いしね」
「課長」
 戸惑いながらも、疑いを捨てきれない課長は、それでも、私達の話を信じてくれると言う。
「――ありがとうございます」
「でも、本当に報告しないつもり?立派に犯罪でしょ、そんなの」
 いつもの課長からは考えられないくらい、真剣な表情で私に言うが、それには首を振って返した。
「今のコラボ企画、絶対に成功させたいんです。――それには、風評被害になりうる事など、公表できません」
「……名木沢クン、ちょっとはき違えてるよ」
「え?」
 私が戸惑うと、課長は、諭すように続けた。
「もちろん、コラボ企画も大事だよ。社長が乗り気だし、上手くいけば、この先、サングループ(向こう)との取引も増えるだろう。――でも、それは、キミの――社員の命と天秤にかけるようなものじゃない」
「ですが」
「だから、悪いけど、聞いた以上少なくとも、社長の耳には入れるから」
「課長!」
「いろいろすっ飛ばすけど、面倒が増えるよりマシだからね」
 そう言って、課長は、すぐに企画の部屋に声をかけた。
「おーい、ちょっと、コラボ企画の事で社長のトコ行くから!何かあったら、秘書さん経由でな!」
 そして、私達に視線を向けると、エレベーターへと向かう。
 ――一緒に来い、という事か。
 片桐さんを見上げれば、眉を下げてうなづかれた。

 ――仕方ない。
 ――こうなった以上、社長を説得するしか方法は無い。

 私は、覚悟を決めると、到着したエレベーターに、二人と共に乗り込んだ。
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