藍月の夜、貴方に逢いたい。
第一章

元総長、元姫




「浪姫様…酷いっ…!」



「は?私はやってない…!」



「いい加減白状しろよ。裏切り者。」



「お前はもう仲間じゃねぇよ。」 



「さっさと失せろ。」


なんで…誰も私を信じてくれないの…?


私はみんながすべてだったのに…みんなはそうじゃなかったの?



冷たい目… 暴言… ははは…もういいや。



みんなが信じてくれないのなら…



私も仲間なんて必要ない。



捨ててしまおう…何もかも…。



ーーー 一度堕ちた白薔薇は ーーー


  
 ーー 黒薔薇になり狂い咲く ーー




〜3ヶ月前〜 〜家〜
私は七海藍紅愛。

全国No. 1暴走族「狼月」の総長兼姫。通称狼姫でーす。

七海グループ次期会長•組長でー、中3。性格はいい方だと願いたい…。まぁ、こんなもんだろ。

壱弥「藍紅愛。今日溜まり場に集合。」

藍紅愛「えー?なんで?」

今日なんかあったっけ?

壱弥 「はぁ〜。今日は集会だっていっただろ?」

藍紅愛 「あ〜。」

そういえば言ってたような…?

…で、この人は鳳条壱弥。「狼月」の副総長、通称狼王。正義感が強く、仲間思いで優しい自慢の彼氏‼︎あ、ちなみに中3で、同居中。

てか、集会行かなきゃな…。 


〜集会〜
下っ端「狼姫様、狼王様お疲れ様です‼︎」

藍紅愛「おつー。」

壱弥「んー、お疲れー。」

基本狼月は役職ではなく、通り名で呼ばれている。

私が総長兼姫だから紛らわしいため、こうなった。

本当は呼び捨てでいいんだけどー、下っ端達がダメって言うからなー。

そんなこと考えていると…ってもうみんな揃ってんのか。

姫華「浪姫様、狼王様お疲れ様です♪」

藍紅愛 壱弥「「おつー。」」

姫華「はぁ…お二人とも、今日も尊い…。」

藍紅愛「?」

この美少女は狼月の総長補佐、花城姫華。

通称月姫。

喧嘩も幹部並みに強く、涙脆い。そして私と壱弥が推しらしい…?

んー?よくわからん! 

壱弥「今日集会でしょ?早く始めよう。」

姫華「は、はいっ!まずこの件なんですが…。」

藍紅愛 ん…?なんか2人仲良いな。

初めのときは2人ともほぼ喋らなかったのに…。

姫華に関してはもうボディータッチしてるし。

ん?なんかもやもやするー。

あ、これもしかして嫉妬ってやつか…?

壱弥「藍紅愛…?お前聞いてるかー?」

藍紅愛「えっ?なんか言った?」

2人のこと考えて、何も話をきいてなかった。

姫華「もうっ!浪姫様!しっかりお話きいてくださーい!」

壱弥「ふっ。姫華その言い方可愛い。」

藍紅愛 え…か、可愛い…?

私の認識だと可愛いって彼女とかそういう特別な人に言う言葉。

彼女の私にさえもそんなことを言わない壱弥が…。

姫華「もうっ…!狼王様、からかわないでください!!」

壱弥「ごめんって。」

藍紅愛 え、壱弥って確か…女嫌いじゃなかったっけ? あまりに姫華と仲が良いから忘れかけてたけど。

2人はもう私がいる事を忘れて2人の空間になってるし…。

私、仮にも壱弥の彼女なんだけど…。

壱弥「藍紅愛?大丈夫か?」

藍紅愛「え、あーうん。大丈夫大丈夫!」

この後も2人が仲良くしているのを必死に気にしないフリをした。

正直きつかったけど、まぁ、ただ2人はともだちとして仲がいいだけ。

総長としては仲間同士が仲良くなったなんていいことだし…そう、自分に言い聞かせた。

私はこの時知りもしなかった…この3ヶ月後には……2人が付き合っているなんて…。


1ヶ月後
私はこの日、溜まり場に来ていた。

たまに他の族の幹部がここらへんをうろつくから、月1くらいは私が見守りをしている。

…それにしても今月はいないみたいだな…っていうかここ最近見てねーんだよなー。

まぁ、いいことだけど。

そろそろ帰るかーと考えていたときだった。


?「はい、こちらは順調です。全国No. 1もたいしたことないです笑」

私は一瞬で物陰に隠れ、聞き耳を立てた。

誰かいるのか…?

というかこの声聞き覚えがある気が…ちっ、物が邪魔で顔がちょうど見えない。

?「あーはい。総長さえ追い出せば雷龍は終わりってすよ笑 総長以外私より弱いし笑笑」

…この声、もしかして姫華…?

特徴的な声だから間違えるはずはないが…でも、やっぱり違うのか…?

いつもと口調が違うし、それに姫華が私のことを追い出すなんていう可能性は0に等しい…

?「あ、それと副総長もめっちゃ、ちょろくてー笑笑、すぐ落とせそうです笑」

え、副総長って壱弥のことだよな…?

な、何言ってんだ…姫華?すぐ落とせそう…って。

電話相手「ふっ、流石うちの黒姫だな。」

地獄耳なわたしには聞こえてしまった…黒姫と…。

ハハ、そういうこと。

全て分かってしまった。

黒龍とは全国No.2の暴走族で過去に乱闘で狼月にボロ負けした族。

当時から他の族を袋叩きにしたり、潰すことをよくしていた過去最悪の極悪非道族として名をはせていたらしい。

父さんから聞いたことがある。

そして現在「黒姫」という過去最悪レベルの姫がいるとかいないとかで有名だと聞いたが…こんな形で会えるとはな…好都合だな。

姫華のことは前々から少し怪しいとは思っていたけど…まさか黒龍の姫だったなんてな…。

まぁ、そうと分かったら始末するしかない。

私はそっとその場を離れた。


そして数週間後 溜まり場にて 

藍紅愛 「姫華、今日は急に悪いな。」

あの日から2週間後私は急用といって姫華を溜まり場に呼び出した。

姫華 「いえ、いえ全然ですよ〜!
ところで急用ってなんですか?」

これは…単刀直入に言った方が良いのだろうか?

姫華の正体については誰にも言ってない。

ショックを受けるのは目に見えているし、今まで沢山傷ついて仲間たちをこれ以上傷つけたくない。

ちなみに、皆んなには姫華の制裁が終わった後、姫華から辞めたと言うつもりだ。

藍紅愛「お前、黒姫なんだろ?」

流石に単刀直入過ぎたか?

姫華「え、何言ってるんですか?私は狼月の月姫ですよ。」

あぁ、どんどん今まで積み上げてきた信頼が崩れていく…。

藍紅愛「今までのことは感謝している。だけど、もう此処で終わろう、姫華。」

ここで私が姫華を倒して諦めて貰おう。

姫華「はぁ…もう気づいちゃうなんて、ほんと、つまんないね。浪姫。」

やっと本性を出したか。後は話が早い。

姫華「はぁ〜あ、もっと”仲良しごっこ“続けたかったのにな。」

は…?仲良しごっこ…?

姫華「てか、あんたムカつくんよねぇ〜、仲間から慕われて、彼氏からも愛されて、しかも喧嘩も強くて美人とか。人生イージーモードーーっ!」

姫華のみぞうちを狙うーーーー

藍紅愛「ちっ。」

避けられたな。結構本気で殴ったのに。

姫華「流石は浪姫〜。ちょっと痛かったな〜うわぁ〜ん。」

そう言って泣き真似をする姫華。

こいつ、どういうつもりだ?

藍紅愛「諦めろ。お前は私に勝てない。」

力の差がありすぎる。

いくら幹部クラスの姫華でも”本気“を出した私には通用しない。

姫華「貴方に勝つつもりなんて微塵も無いですよ〜、私はただ、貴方を不幸にしたいだけ。」

藍紅愛「は?」

どういうつもりだ?姫華は私を殺す為に刺客として送られて来たんじゃないのか。

それに…不幸って、

姫華「浪姫様…酷いっ…!」

そう言って急に泣き崩れた姫華。

それに続いて急に気配が増えた……!?

幹部①「おい、浪姫。これはどういうことだ。」

藍紅愛「は?なんでお前達が…っガハッ」

気がついたら私は狼月メンバー全員に囲まれていた。幹部の1人に本気で殴られた。

しかも、みぞうちに。

きっとこれは姫華の仕業だ、姫華を呼んで倒す事を見越した作戦に私は見事にかかったってわけか。

それにしても全国ナンバーワンも終わってるな。

裏切り者の姫を庇って信じるなんて。

幹部②「俺たちが聞いてる事にさっさと答えろよ。」

藍紅愛「っ…」

どうしようか…きっと姫華のみぞうちを狙ったところから見た上に私のさっきのセリフで流石に誤解は解けないか…?

幹部③「月姫が前から言っていたいじめは本当だったんだな。失望したわ、浪姫。」

藍紅愛「は?私はやってない…!」

姫華はどうやら思っていたよりも私を陥れたいらしい。

幹部①「いい加減白状しろよ。裏切り者。」

そう言って、真顔で蹴ってくる幹部。

正直失望したのはこっちのセリフなんだが…それに蹴りも全く痛くも痒くもない…ただ、心が痛いなっ…

幹部②「お前はもう仲間じゃねぇよ。」

ねぇ、気づいてる?

今あんたの後ろで笑ってる姫華のこと。

今あんた達が必死に守ってるお姫様は敵のスパイなんだよ。

ねぇ、こんなのってないんじゃない……?

幹部③「さっさと失せろ。」

失せろって……このたまり場は私が土地を買ってるからどちらかと言うとあんたらが不法侵入だよ。

藍紅愛「壱弥は……?」

さっきから壱弥の姿だけ見えない。

幹部①「裏切り者に教える必要なんてねぇんだよっーーー」

殴られるっーーー

攻撃が来る直前ーー誰かが攻撃を止めた。

藍紅愛「い、壱弥っ……」

やっぱり助けに来てくれたんだ……。

壱弥は私を信じてくれたんだよね…?

安心したのもつかの間、次の瞬間……




ーーー壱弥は私を殴ったーーー





藍紅愛「え……?」

今私を殴ったのは本当に壱弥……?

殴られた頬がじんじん痛む。

嘘だよね?

そんな訳ないよね?

壱弥まで私を…………裏切らないでっ……。

藍紅愛「壱弥……?」

話しかけても何も言わずに立ち尽くす壱弥。

藍紅愛「ねぇ、なんでーーーぐっ

その瞬間右脇腹を蹴られた。

なんでそんな事するの壱弥?

やめてよっ……。

反撃しようにも仲間を傷つけたくない本能が働いてしまう。

藍紅愛「なんでこんな事するの?」

微かな期待を胸に問いかける。

壱弥「こっちのセリフだよ。」

は……?

壱弥「3ヶ月前から姫華をいじめてるんだってな。総長の座では満足出来なかったのか?」

バカにしたように鼻で笑って話す壱弥。

身に覚えのない話過ぎて頭の処理が追いつかない。

どうやら狼月の中では私が姫華をいじめて追い出そうとした悪党らしい。

藍紅愛「私はやってない。」

壱弥「黙れ。雷龍の掟に、仲間を裏切らないとある。この掟を破った者は例え総長だとしても組から追放する。」

やっぱこうなるんだ……。

だけど壱弥から言われるなんて……っ

壱弥「今日をもって初代狼月総長兼狼姫の位を七海藍紅愛から剥奪する。」

狼月「おぉぉぉぉぉっっ……!!!!!」

私の視界に入っている人々は本当に狼月なのだろうか……?もう、視界がぼやけてろくに見られない……。

最初は壱弥と私だけの組だったが、少しずつ少しずつ仲間が増えていって今では国内最大の組になった。

私は狼月のこと……皆のことは家族以上の絆で結ばれていると思っていたけど皆はそうじゃなかったんだな。

総長の私より姫華を信じた時点で私との絆なんてなかった事が証明されている。

壱弥「その裏切り者を追い出せ。」

下っ端「はいっ!!」

藍紅愛 今までのここでの思い出が走馬灯のように流れていく……

初めてここに来て壱弥と誓ったあの日。

どんどん組員が増えて乱闘に勝つごとに行った勝利会。

あはは……

もうあの時には戻れないんだ……。

もう……疲れた……っ。

もう下っ端に抵抗する力も残ってない……、ははは、つらっ……。

追い出そうと下っ端が私に触れようとした瞬間……

ー誰かが溜まり場に入って来た……

……え?

どういう事だ……?

狼牙の溜まり場はそう簡単に侵入できる場所じゃない、

大勢いる見張りや部屋の護衛は少なくても100人はいたはずなのに……


ー何でこの人は無傷なんだ……?


族として終わっているとはいえ仮にも国内トップの属のたまり場なのに……

光の逆光でよく見えないが1人だけということは分かる。

この人何者ーーー?

幹部①「なんで、なんでお前が……、ここに……?」


幹部②「本当に存在してたのか……?」


幹部③「華皇っ……!?」


かおう……?なんだ、通り名か……?


壱弥「誰かと思えば……お前か、華皇。」


壱弥の声が上ずっている……怯えてるの?


あの壱弥が……?


華皇という人が現れた瞬間この場の空気が変わった。


狼牙全員が華皇さんを見て、息を飲んでいる。



まるで……恐ろしいものと対峙してしまったように……


もう一度華皇さんを見るけど……やっぱり顔が全然見えない……



壱弥「何の用だっ?鈴華風情がさっさと消えーーっ」


一瞬だった……、目にも追えない速度で華皇さんは壱弥を抑えてしまった……。



……嘘……。


華皇「これまでお前に任せてた俺が間違ってた、
これからは俺が藍紅愛を守る。」


ん……?

華皇さんは壱弥に小さい声で何かを言った。



というか……なんで狼牙まで来たんだろう……?


族潰しとか?



って……何でこっちに向かってくるの……?



ま、まさか私をまだ総長だと思って抑えようとしてる……?


壱弥「おい!!狼姫を拘束しろ!!!」


下っ端「は、はいっっ!!」


え……?何で拘束?


もう身体中血だらけで辛いってのに……


乱暴な様子で私を拘束しようと下っ端が近付いた時ーー



華皇「その汚い手で藍紅愛に触れるな。」


下っ端「ひっ……っ!!!」


気付いたら華皇さんが私の肩をだいて下っ端から守ってくれていた……



下っ端の手を払った後、足で蹴り飛ばした華皇さん。


軽く蹴り飛ばしたように見えたのに、壱弥達がいる所まで飛んでいた……。



蹴り飛ばした本人は何も気にせず、真っ直ぐ私を見た……


華皇「……藍紅愛。」


さっきまでの威圧感のある声とは真逆に、私に話しかける声は優しい……



華皇「藍紅愛、大丈夫か……?」


華皇さんは深くパーカーを着ていて顔は見えないけど……すごく悲しそうな声をしてるっ……。


藍紅愛「えっと……あの……、」
なんて言えばいいのだろうか……?


華皇「もう、大丈夫だ。これからは俺が藍紅愛を守る。」
そう言って私をそっと抱き寄せた華皇さん。
なんか、安心感が凄くてずっとこうしてたいなっ……。……意識が遠のいて……、


華皇「おやすみ、藍紅愛。」
























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