溺れて、絆される
磯端 礼斗
そんなある日。

『――――莉瑠お願い!』
莉瑠は友人の亜純(あすみ)に、食事に誘われていた。

亜純は、高校の時からの友人。
友人の中で、唯一仲の良い女性である。
莉瑠とは違う大学に通っている。

亜純のサークルに、来てほしいと言われたのだ。

『顔出すだけでも良いから、お願い!!』

「…………わかった。
亜純の頼みだし」


そして……食事日当日。
着替えようとする莉瑠。
しかし、英琉が服装を決めていた。

「―――――エルル、これは?」

「は?ダメ」
ベッド脇に腰掛け、スマホを操作している英琉。
ウォークインクローゼットから顔を出して服を見せる莉瑠をチラッと見て、淡々と答えている。

「エルル…遅れちゃうよぉ」

「だったら行かなきゃいい」 
不機嫌な表情(かお)で、淡々と言う。

「…………どうしてそんな意地悪言うの?」
英琉の方へ行き、座っている英琉の前に立つ。

「行ってほしくないから」
ベッドにスマホを放り、真っ直ぐ莉瑠を見上げて言った。

「え?」

「行かないでよ…
俺の傍にいてよ…」
ギュッと抱き締め、すがるように言葉を吐く。

莉瑠は滅多に、英琉から離れない。
友人に誘われても、断って、英琉との時間を優先にする女性だ。
なのでたまに出かけられると、英琉は寂しくなる。
そのため莉瑠の外出時は、こんなふうに駄々をこねるのだ。

「できる限り、早く帰るから」


なんとか英琉の許可を得て着替え、メイクにも口を出されながら支度を終えた莉瑠。

玄関に向かう。
「エルル、行ってくるね」

「待って。駅まで送る」

「うん!ありがとう!」

指を絡めて手を繋ぎ、20分程の駅までの道を歩く。

赤信号で待っていると、不意に英琉が莉瑠の髪の毛に触れ一房取った。

「ん?エルル?」

「ねぇ」

「ん?」

「なんでそんな可愛いの?」

「………」

「………」

「………え?何、その、突拍子のない質問(笑)
じゃあ…逆になんでそんなカッコいいの?」

「それは、生まれ持ったモノ」

「………」
(う…あながち、間違いじゃない…)

「それに、リルルの前ではカッコつけてるよ?
だって、嫌われたくないし!」

「じゃあ…私も、生まれ持ったモノ!」

「それもだけど、リルルはそれに加えて化粧とかしてる」

「だって、可愛くなりたいもん」

「これ以上可愛くなる必要ない」

「エルルも、これ以上カッコ良くならないで!」

「………」

「………」

「………フッ…!」
「フフ…!」
二人は、顔を見合わせて噴き出した。
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