溺れて、絆される
莉瑠は、瞬間的に考えを巡らせた。

オザトのことを言うと、英琉と洸介の怒りを買う。
このハンカチの男性が助けてくれたし、オザトの謝罪も受けた。

もう、言う必要ない。

「転んだの」

「ほんとに?」
「莉瑠、正直に言えよ?」

顔を覗き込む英琉の視線が痛い。
運転席からの洸介の声色も。

「う、うん…」

莉瑠は素直な女性。
嘘がつけない。

「リルル、バレてるよ」

「へ!?」

「誰にやられた?
莉瑠、言え!」

「………」

「リルル」
「莉瑠!」

「転んだんだもん」

「………じゃあ…リルル、いいよね?」

「え?」

「洸介」

「ん。
莉瑠のダチに聞くからな?
サークルの連中にも!
TENの仲間と一緒に」

「え!?
だ、ダメ!!」

「だったら、教えて?」 

莉瑠はしかたなく、オザトの事を話した。

「―――――それで、怪我したの?
なんで、そんなことするの?」

「だって!
私のせいで、関係ない男性まで傷つけちゃダメと思って!」

「リルルの気持ちはわかるよ?
でも結局、怪我してる」

「うん…ごめんなさい…」

「ううん。
とにかく、帰ったら手当てしようね」

頭をポンポンと撫でられ、莉瑠はコクンと頷いた。


自宅マンションに帰り着き、英琉が手当てをする。

優しく、ハンカチを取った。
「ん?リルル、手首赤いね…
捻挫してない?」

「え?擦りむいただけだよ?」

「でも莉瑠、ちょっと腫れてるぞこれ…」
洸介も心配で一緒に家にあがり、英琉の手当てを見て言った。

「リルル、ちょっと触るよ?」
赤くなった手首を、少し押してみる。

「うぅ…痛い…!」

「やっぱり、これ捻挫してるよリルル。
腫れも少しだから、骨折まではないと思うけど」
「オザトって奴に突き飛ばされた時に、尻もちついて、手首も地面についたんだろうな…」

「でも、大丈夫!」

「強がるなよ、莉瑠」
「そうだよ」

英琉が丁寧に手当てしてくれ………

「リルル、今日は絶対安静ね」
と、釘を刺された。


「―――――じゃあ、英琉、莉瑠!
俺は帰るからな!」

「ありがと、洸介」

「わざわざありがとう!
……………あ!洸介くん!」
玄関まで見送り、声をかける。

「んー?」

「私は大丈夫だからね?」

「ん?何が?」

「オザトさんに手を出さないでね?」

念を押すように言った、莉瑠。
洸介は後ろ手に手を振り、出ていった。
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