溺れて、絆される
リルルが飲み物を取りに行ってくれ、俺と洸介は端の方に移動する。

「凄いな、莉瑠」
会場内を見渡しながら、洸介がポツリと言った。
俺も会場を見渡しながら「そうだな」と呟いた。

そして、とても切ない気持ちになっていた。

なんだか、リルルが突然遠くに行ってしまったように感じていたからだ。

俺の前では“財閥の令嬢”というのを、微塵も出さないリルル。
他の女と変わりない“ごく普通の女子大生”だ。


「―――――失礼」

そんな俺達に、突然一人の男が声をかけてきた。
見た感じ、30代くらいだろうか。

「なんですか?」

「君達、莉瑠さんとはどうゆう関係?」

「幼なじみっすよ。
で、こいつは彼氏」
洸介が答えた。

「へぇー、君が」

見定めるような視線。
俺は、怪訝そうに見た。

「どうやって取り入ったの?
旦那様に」

「「は?」」

「恋人ってことは…… 
“あの”旦那様に認められたってことだろ?」

「………」

言いたくない。
こんな失礼な奴に。

俺のリルルを汚されたような気分だ。


「―――――彼はただ、誠実なだけですよ」

そこにリルルの声がして、また“御笠 莉瑠”がそこにいた。

「あ…莉瑠さん!?」

「貴方がたとは違って、彼は取り入るなんてことはしていません。
ただ誠実に、普通に私や父と接しただけ」

「あ…そ、そうですか…!」

「申し訳ありませんが、席を外していただけますか?」

「は、はい!」

去っていく男を見送り、俺と洸介に微笑んだリルル。
「はい!
このワイン美味しいんだよ!」

「リルル」

「ん?」

「ごめん。
俺達のせいで、なんか…」

「どうして?
エルルと洸介くんは何も悪くないでしょ?
ほら!飲も?
これ飲んだら、出ようね!
パパには断ってきたから!」

「でも、挨拶したほうがよくないかな?」

「大丈夫。
まだパパ色んな人達に囲まれてるし、また後日お食事しようって!」


ワインを飲み、俺達は会場を出た。

「なんか莉瑠、別人だったな!」
洸介が言う。

リルルは、フフ…!と笑って「まぁね〜」と言った。

「初めて見たよ、あんなリルル。
てゆうか…リルルって感じじゃなかったな」

「…………でも、エルルと洸介くんといる時が一番“私らしく”いられる」

「「え?」」

「パパやママといる時みたいに甘えたり、心から笑ったり…二人といる時の私が私だよ…!」

そう言って微笑むリルル。

とても綺麗な笑顔だった。
< 38 / 54 >

この作品をシェア

pagetop