溺れて、絆される
「………ふぅ…」

一段落ついたのか大きく息を吐き、本にしおりを挟んだエルル。

「ん?終わった?」

エルルの顔を覗き込むと、エルルは微笑んで抱き締めてきた。
私も抱き締め返す。

「ちょっと、補給させて?」

「フフ…うん!
…………ごめんね、私のせいで色々背負わせてるよね?」

「ううん」

エルルは、御笠グループに就職することが決まっている。
今年のお正月にエルルが私の実家に挨拶に来てくれて、パパから“将来のこと”を聞かれた。

『もちろん、御笠グループへの就職を考えてます』

はっきりとエルルは、パパに言ってくれたのだ。
パパとママはそれをとても喜んでくれて、そのつもりで準備すると言っていた。

「いいんだよ?
エルルのしたいことをして?
私の実家のことなんて……」

「俺は、リルルと結婚したいと思ってる。
リルルもそのつもりで、一緒に住んでくれてるんでしょ?」

「うん、そうだよ?」

「俺との結婚生活のために、家事頑張ってくれてるでしょ?
料理なんか、この三年、一生懸命頑張ってただろ?
レシピを見ながら、最初の頃は手を切ったり、ヤケドだってしたことある」

「それは私が過保護に育てられて、何も出来なかったから……」

「だから、俺も頑張るよ!
それにリルルとの結婚を考えた時点で、俺はリルルの名前も背負う覚悟をしたんだ」

「うん」

「それに、楽しいよ?」

「え?そ、そう?」

「ほら俺、何でも一通り出来るから、今まで一生懸命何かをしたことなかったんだ。
だから今は、リルルとの結婚生活のために一生懸命取り組めることに喜びを感じてる」


それからエルルがベランダで煙草を吸い始めたので私もついて行き、べったりくっついていた。
それでもエルルは、嫌な顔一つせずに頭を撫でてくれている。

「エルル、今日夜何食べたい?」

「んー、特にないな。
リルルの食べたい物でいいよ」 

「わかった!
冷蔵庫見てみる」
エルルから離れて中に入ろうとして、ピタッと止まる。

うぅ…なんか、今日は寂しい……

私は振り返り、エルルを見た。

「ん?リルル?」

「エルル、来て」

「ん?」

煙草を灰皿に潰して、ついてきたエルル。
カウンターに座るように言って「ここにいて」と言った。

エルルはフフ…って意味深に笑って「わかった」と頷いてくれた。
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