冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
プロローグ
「君が身代わりだと、この僕が見破れないとでも思ったのか?」

 シルヴァンス・マードリック公爵は、冷え冷えとした視線を『名無し』と呼ばれる令嬢に向け、長い足を優雅に組んでいる。名無しがこんなに冷酷な表情のシルヴァンスを見るのは初めてだ。

 静かに(いか)るシルヴァンスがあまりに恐ろしく、名無しは慌ててソファーから下りて土下座する。

「シルヴァンス様、た、大変申し訳ございません……!」
「僕たちが交わした契約は無効だな」

 名無しとシルヴァンスはすでに契約結婚をしていた。だが、それはあくまでも彼女の姉であるアリッサ・フレミングの名前で交わしたものだから、シルヴァンスの言うことはもっともだ。

 シルヴァンスが妻にしたと思っていた相手は身代わりで、サインもなにもかも偽物なのだから婚姻も契約も成立していない。

(あああああ! 旦那様から、あれだけ隠し通すように言われてきたのに、あっさり身代わりだとばれてしまいました……! どうしましょう――!?)

 わずか一カ月ほどで最大の秘密を暴かれ、名無しはサーッと血の気が引いた。

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