冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 次女は生まれてすぐに事前に雇われた乳母に任され、両親に抱いてもらうことすらない。それを見かねた乳母のソニアと医師がフレミング夫妻に声をかけた。

「お嬢様はすやすや眠っておいでです。旦那様、どうかお顔だけでもご覧いただけませんか?」
「フレミング侯爵様、こちらのお嬢様は――」

 乳母の言葉でピクリと身体を震わせ、医師の言葉でモーゼスは爆発したように怒りを露わにした。

「それはフレミング家の娘ではない! 今後、いっさいの世話をソニアに任せるという契約だ。さっさと離れに連れていけ!」

 モーゼスは生まれたばかりの次女を冷酷に切り捨てる。医師とソニアは双子に対する態度の違いに憤慨し、心の中は悲しみであふれた。

「フレミング侯爵様、どうか話を聞いてください! 古文書から医学書まであらゆるものを調べましたが、双子だからといって災いが訪れるなど、どの文献にもありませんでした。この子もおふたりの大切なお嬢様であることに変わりないのです」
「旦那様、せめて名付けを……この子にはまだ名がありません!」

 医師とソニアは懸命に訴えるが、激昂(げっこう)したモーゼスが一喝する。

「黙れ! なにもわからないくせに口出しするな! その赤子は奴隷なのだから名前など必要ない! 『名無し』とでも呼んでおけ! 口答えするばかりで役に立たない奴らは、さっさとこの部屋から出ていけ!!」

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