冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 こうして医師やソニアの言葉はいっさい聞き入れられず、彼女は名付けもされないまま屋敷で過ごすことになる。

 名無しは身の回りのことがひとりでこなせるようになるまで離れに隔離された。

 ここまでは恵まれなかったが、彼女の世話をするために雇われたのがソニアで幸運だった。ソニアは生まれてすぐの我が子を亡くしており、名無しを実の娘のようにかわいがったのだ。

 与えられたわずかな予算の中で赤子の着る物からミルク代まで出せと命じられて、ソニアは毎月、自腹で衣装や食事を用意している。

 貴族令嬢の衣装は価格が高く、薄給のソニアは切り詰めながら生活するのがやっとだ。

 それに成長期の名無しのために、まともに用意されない食事を充実させることを優先している。できることなら姉のアリッサと同じようにクッキーやケーキを名無しに食べさせてあげたいが、ソニアにはそこまでの余裕がない。

 それでも足りない時は、自慢だった長い黒髪を切って売り、名無しがなるべく不自由しないようにお金の工面もしたのだ。

 日々成長していく幼子に愛情を注ぎ育てた結果、よく笑いなんにでも興味を示すかわいらしい女の子に成長した。

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