冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 たったこれだけの説明で理解した名無しにソニアは驚いたが、ショックを受けた様子がなくてホッとする。

 どんなに残酷な事実だったとしても、それが名無しの生きる世界なのだ。ソニアは言葉を慎重に選びながら説明を重ねた。

「はい。理由があってお嬢様はわたしと暮らしています。ですが、わたしが精一杯お世話しますので、どうか安心してくださいね」
「うん、ソニアはやさしいからだいすき!」
「まあ! わたしもお嬢様が大好きですよ」

 小さな腕で抱きつかれ、ソニアはまだ残酷な現実を知らない名無しにギュッと胸が締めつけられた。

 それから一年経ち、名無しは五歳になった。

「どうしてソニアはいつもニコニコしてるの?」
「それはお嬢様と一緒にいて幸せだからです」
「でも、ほかのみんなは『ふきつ』だっていって、ちかくにこないよ」

 名無しは自分に両親と双子の姉がいるのは知っていたが、会ったこともないのでいまいちピンときていない。

 好奇心が強い名無しは両親や姉がどんな人たちなのか気になり、何度か本館に行こうとして、そのたびに使用人たちに止められ苦い顔をされる。

 その際に名無しの存在が不吉だと陰口を(たた)かれ、使用人はおろか本館で暮らす両親や双子の姉すら近寄ってこないことに気が付いた。

 だから、ふたりきりで離れで暮らすソニアがいつも笑顔でいることを不思議に思う。

< 13 / 36 >

この作品をシェア

pagetop