冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 ある日、ソニアが寝る前に読み聞かせた絵本をとても気に入り、彼女は何度も読んでほしいとせがんだ。「本当に絵本が好きなのですね」と笑いながら、ソニアは何度も何度も読み聞かせる。

 そうしているうちに自力で文字を読めるようになって、王子様やお姫様の物語がお気に入りになった。

 やがて絵本では物足りなくなり、離れにあった本を読み尽くした十歳の頃に本邸へ戻される。

 それと同時に乳母のソニアも解雇された。

「ソニア! お願い、行かないで!」
「お嬢様……どうかわたしが教えたことを忘れないでください。幸せはどこにでもあるのです」
「でも、うう……ソニアが、いないと、ひっく、幸せ探せ、ないよ……うううっ」

 ソニアは大粒の涙を流す名無しを最後にそっと抱きしめる。

 この十年間、ひたすら彼女の幸せを願ってきた。か細い肩を震わせる少女が、これからどんな環境に身を置くのかと考えたら苦しくてたまらない。

 ソニアの水色の瞳からこらえきれない涙があふれて、頬を伝っていく。

「お嬢様……できることなら、ずっとおそばにいたかった! わたしが母親だったらと、何度考えたか……! どんなに……どんなに離れていても、わたしはお嬢様の幸せを願っています」

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