冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 子を亡くした時に離縁され、没落貴族となったソニアにはフレミング侯爵に抵抗する術がなく、他言無用の魔法誓約書によって他の機関に訴えることもできない。

 安易に魔法の契約を結んだ自分を幾度呪ったことだろうか。

 だが、肩を寄せ合いひっそりと生きてきたふたりにとって、この世界は無情で残酷だ。

 いつまでも離れようとしないふたりは門番たちに力任せに引き剥がされる。

「そろそろ時間だ。解雇されたのだから、お前は屋敷から出ていけ!」
「待って、ソニア! ソニアー!」
「お嬢様! どうか忘れないでください! 幸せはたくさんあります! どうか――!」

 こうしてソニアはフレミング侯爵家から放り出され、名無しはひとりになった。

 それから名無しは小さな窓があるだけの物置小屋を私室にあてがわれ、使用人が着るお仕着せを身にまとい暮らしは一変する。

「本館で暮らすにあたり決まりがある。決してこれらの項目を破らないように」

 家令からそう言われ、名無しは数々の決まりが書かれた紙を渡された。

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