冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
(でも、今まで屋根のある場所で、ソニアにもたくさんのことを教えてもらえて、とっても幸運なのかもしれません!)

 名無しはソニアと別れた時のことが(よみがえ)り、再び涙が込み上げた。それでも大好きなソニアが『幸せはたくさんある』と言っていたのを思い出し、教えてもらった通り幸せを探しながら暮らしていこうと涙をグッと呑み込む。

 どこにも助けを求められない状況で、名無しは強くなるしかない。

 ひとりで寝起きするのも慣れた頃、挨拶をするため初めてモーゼスと対面することになった。彼女と同じ金色の瞳がギロリと睨(にら)みつけてくる。

「いいか、勘違いするな。お前は確かにベリンダの腹から出てきたが、決して私の娘とは認めない。むしろ災いの元であるお前をここまで生かしたことに感謝しろ! これからは私たちに恩を返すのだ!」
「はい! わかりました!」

 モーゼスの言葉を素直に受け止め、名無しは心からありがたいと思いフレミング家へ尽くそうと決心する。

 そんな彼女は名前を付けられることもなく、貴族籍にも登録されていない。『名無し』という通称のまま、フレミング侯爵家のために日々働いていた。

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