冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 幼かった名無しはソニアの教育のおかげで、真っ直ぐな心のまま成長していく。

 十九歳になった彼女は母と同じ真紅の長い髪をひとつにまとめ、父と同じ琥珀の瞳を輝かせ、お仕着せをまとっていてもその美しさはあふれんばかりだ。

 顔立ちは双子の姉アリッサと(うり)ふたつだが、素直な性格が表れているのか優しげな印象を受ける。

「おい、名無し! 私が株で損をしたのは、お前が生まれたせいだ! いったいどう責任を取るのだ!?」
「旦那様、大変申し訳ございません!」

 投資で失敗したモーゼスはやけ酒を(あお)り、すべて名無しのせいだと糾弾する。酔いが回ったモーゼスが寝るまで、彼女は罵倒され続けた。

 それでも八つ当たりしてスッキリするならいいことだと、モーゼスの理不尽な叱責を一身に受ける。

 名無しに触れると不幸が移るかもしれない、と恐れたモーゼスに暴力を振るわれなかったのは幸いだった。

「わたくしの前に姿を現すなと言ったでしょう!! 早く消えてちょうだい!!」
「奥様、失礼いたしました!」

 ベリンダには存在自体を認められておらず、うっかり鉢合わせしてしまった際はいつもこうして怒鳴られる。

 会わなければ害はないので、名無しはベリンダに鉢合わせすると運がなかったと思うようにしていた。

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