冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 朝早くから屋敷の掃除や調理の下ごしらえ、場合によってはフレミング侯爵家の面々の鬱憤(うっぷん)晴らしに付き合うこともある。

 ある冬の日、モーゼスがまたもや投資で失敗し、名無しに暖房を使うことを禁じた。さらに偶然会ってしまったベリンダにも罵倒され、一緒にいたアリッサには掃除中のバケツの水をかけられる。

 その翌日に高熱が出てしまい「体調管理ができていない!」と叱責され、名無しは治るまで放置された。自力で回復できたのは奇跡に近い。

(ふう……先日は旦那様と奥様、それにアリッサ様もかなりストレスが()まっていたみたいですね。あれだけ吐き出したのだから、私でもお役に立てたでしょうか……)

 それが自分の仕事なのだと思う名無しは、どんなに罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられても役に立てるならいいと心から思っている。

「ちょっと、いつまでここの掃除をしているのよ! 本当に名無しは鈍くさいわね!!」
「アリッサ様、申し訳ございません! すぐに終わらせます!」

 名無しと同じ顔の美しく着飾ったアリッサが、眉を()り上げ怒鳴り散らした。メイド長からエントランスの掃除を命じられ掃除していたのだが、外出から戻ったアリッサの目に入って叱責されてしまったのだ。

< 22 / 36 >

この作品をシェア

pagetop