冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
「いつもいつも早く終わらせてって言ってるでしょう! 名無しの辛気くさい顔なんて見たくないのよ! 罰として夕食は抜きだから!!」
「申し訳ございません……」

 そう言い残してアリッサは私室へと向かう。

(ああ、その言い方ですと、私とアリッサ様は同じ顔の作りなのでブーメラン発言になってしまいます……!)

 最近読んだ小説で、主人公が意地悪をしたキャラクターにそんな風に言っていたのを思い出した。アリッサと同じ顔であることを申し訳なく思いつつ、黙々と手を動かす。

 以前思った通りに進言したら『余計な口答えはするな!』と一喝されたので、いつも心の中だけで呟(つぶや)いていた。

 名無しは退職した使用人が置いていった本や、数日前の処分するだけになった新聞をこっそり部屋に持ち帰り、寝るまでのわずかな時間で読むのが楽しみのひとつになっている。

 こうして未知の世界を知り、とめどない好奇心を満たしていた。

(掃除はお屋敷がピカピカになるから気持ちいいです〜! ええと、次は夕飯の下ごしらえですね)

 エントランスの清掃を終えて、名無しは調理場へと足早に向かう。

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