冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
「おい! 洗い場を片付けろ!」
「はい、こちらも洗ってよろしいですか?」

 たった今使って空になったボウルも洗った方がいいかと思い、名無しは料理長に声をかける。

「見てわからないのか! さっさとしろ!」
「はい!」

 名無しはなにをやっても怒鳴られるが、これも日常のひとコマなので平常心を保ったままだ。

 メイド長や執事長が厳しく目を光らせているので、使用人たちは双子の次女として生まれた名無しの味方になることはない。

 むしろ主人にならい、料理長のように名無しにきつく当たる使用人の方が多いのだ。

 だけど名無しはこんな環境でも小さな幸せを見つけるのが上手だった。

(この前取っておいたサニーレタスの芯から葉っぱが伸びてきて、そろそろ収穫できそうでしたね。明日の食事でいただきましょう)

 名無しは厨房(ちゅうぼう)の手伝いをする際に、捨てるだけの野菜くずを持ち帰り、欠けて使えなくなったカップに入れてこっそり部屋の中で栽培していた。

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