冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 これは以前、新聞記事に載っていた再生栽培と呼ばれ、市場で買ってきた野菜の切れ端をわずかな水につけて、もう一度食べられるようにする方法だ。これなら言いつけを破らずに、新鮮な生野菜が食べられる。

 この記事を見つけた時、名無しはワクワクして夜も眠れなかった。

(サラダに交ぜたら、ボリュームアップして美味しく食べられそうです……! ドレッシングはいつも余るから、多めにもらっていけばご馳走サラダになりますね)

 余り物のドレッシングなら少しくらい多めにもらっても決まりを破ったことにはならない。

 安心して食べられるので、名無しにとってサラダは楽しみのひとつだった。

 名無しの部屋には誰も立ち入らないため、こんな風に食材を手にしているとは誰も気付いていない。

 そこへバタバタと大きな足音を立て、慌てた様子の執事長がやってくる。

「おい! 名無しはいるか!?」
「はい、なんでしょうか?」

 こっそりと計画を立てる楽しい時間は終わり、ピリついた空気が厨房に漂う。いったい何事かと、執事長の言葉を待った。

「旦那様がお呼びだ、すぐに執務室へ行け!」

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