冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 てっきり叱責されると思っていたので、予想外の雰囲気に名無しは戸惑った。

 深いため息をついたモーゼスが、忌々しげに口を開く。

「名無し、お前にこれから貴族令嬢の教育をする。二カ月ですべて身につけろ」
「……そ、それはどういうことでしょうか?」

 ありえないとはわかっていても、ついにフレミング侯爵家の娘だと認めてもらえたのかと、名無しの声が震えた。

「アリッサが婚約者のいる男を(そそのか)した悪女だとレッテルを貼られ、国王陛下から処罰を求められたのだ!」
「本当になんなのよ……! 結婚相手を探してちょっと遊んだだけなのに、わたしが悪女だなんていい加減にしてほしいわ!」
「そうよ。アリッサが魅力的なだけなのに男を取られただなんて、ただの言いがかりよ」

 モーゼスの言葉で、納得できない断罪劇を思い出したアリッサは感情が荒ぶる。その『ちょっと遊んだだけ』なのが一線を越えており、貴族として処罰の対象になると正しく理解していなかった。

 さらにベリンダも娘がかわいいあまり、現実を正しく捉えていない。

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