冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
「処罰としてアリッサがあのシルヴァンス・マードリックに嫁ぐことになった。だが、あんな男にかわいいアリッサを嫁がせるなどできない。だからお前が代わりに嫁ぐのだ。向こうで人体実験されようが、なにをされようが、罪を償うまで戻ってくることは許さんぞ!」

(シルヴァンス・マードリック……公爵様?)

 それは貴族新聞で目にしたことがある名だった。たまに使用人たちが買ってくる大衆紙にも特集記事が組まれていたから、よく覚えている。

(思い出しました! 冷酷非道で人体実験を繰り返すマッドサイエンティストの、シルヴァンス・マードリック公爵様ですね!)

 以前読んだ大衆雑誌では、夜な夜なマードリック公爵家の屋敷から(うめ)き声が聞こえるとか、屋敷に行った若い女は戻ってこられないとか、金に物を言わせて人間にも実験しているとか、そんな黒い噂があると書かれていたのを思い出した。

 弱冠二十四歳の青年で天才的な頭脳を活かし、過去に何度も国王から褒賞を受けているということも貴族向けの新聞で読んだ。

 その時は、希少な光魔法の使い手に特殊な魔法陣を施した魔石へ治癒魔法を込めてもらい、医者のいない地域や騎士団の遠征、訓練時に怪我を治す治癒魔法を簡単に使えるようにしたとあった。

 これにより死傷者の数がグッと減り、国の繁栄に貢献したと記載されていたのだ。

 マードリック公爵はさらに魔石と魔法陣の研究を進め、魔力を持つ貴族ならどんな魔法でも使えるようにさまざまな魔法を込め、高い評価を受けていたのを覚えている。

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