冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 名無しにとって、このフレミング家が世界のすべてだ。使用人よりも価値のない彼女は初めての大役に気合が入る。

(無事に役目を果たして、アリッサ様の罪を償ってまいります!)

 なによりも優先すべき使命を与えられたので屋敷の仕事は免除され、新たに雇われた教育係から礼儀作法をとことん学んだ。

 途中、アリッサと名無しの誕生日があったが、アリッサが処罰を受けたこともあり、例年のように誕生パーティーは開かなかった。

 その代わり、家族や使用人たちで盛大に祝い、その和気あいあいとした様子が勉強漬けの名無しの耳にも届く。

(あ、今日はアリッサ様の誕生日でした……では、私も二十歳になったということですね)

 これもいつものことなので、そのまま礼儀作法の本を読むことに没頭した。

 名無しは飲み込みが早いものの、貴族としての振る舞いや礼儀作法は多岐にわたる。

 日常生活における貴族としての所作と、目上の人物に対する礼儀作法を中心に猛特訓した。しかし、どんなに内容を絞ったとしても、たった二カ月でそれらすべてを教えるのは無理がある。

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