冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 二カ月後、仕上がりを確かめるため、モーゼスが名無しを執務室へ呼び出した。

 ベリンダとアリッサも同席して入室からの所作をつぶさに観察する。ノックの仕方から扉の開け方、部屋に入ってからの足運びなど、最後に名無しが目の前でカーテシーをするまで目を光らせてチェックした。

「ううむ……まあ、貴族令嬢に見えないことはないが、なんというかまるで洗練されていないな」
「本当に、田舎から出てきたばかりの貧乏貴族の娘のようね。あなた、これで大丈夫なの? いくらなんでも侯爵令嬢として品がなさすぎるわ」
「ちょっと、名無し! わたしはそんなガサツな所作はしないわよ! あれだけ勉強の時間を作ったのに、どういうこと!?」
「申し訳ございません!!」

 アリッサに叱責され、名無しは思わず使用人のように九十度に腰を折って頭を下げる。

 貴族令嬢ならそこまで深く頭を下げないが、アリッサに叱責され続けてきた名無しは条件反射で使用人としての謝罪をしてしまった。

(ダメですね、アリッサ様に叱られて思わずいつものように謝罪してしまいました……。ここは確か、背筋を伸ばし四十五度のお辞儀をして、ヘソの下で手を組むのでした……!)

 名無しは頭を下げたまま、不出来な自分を反省する。

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