冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
「アリッサ、あまり叱るな。ボロが出てしまうぞ」
「でも、お父様。わたしがこんな田舎くさい所作をすると思われるのは耐えられません!」
「そうよ、あれだけ美しい所作のアリッサがこんな……!」

 しかし、王命で下された期日が明日に迫り、満足できるほど仕上がっていないが名無しをこのまま送り出すしかない。かわいい愛娘を守るためだとモーゼスは己に言い聞かせる。

「仕方ないだろう。アリッサをあんな頭のおかしい公爵へ嫁がせるわけにはいかんのだ」

 モーゼスの言葉に、アリッサもベリンダも口を閉ざした。

「よいか、アリッサの身代わりだと絶対にばれないようにしろ」
「はい! 承知しました! アリッサ様の身代わりとして頑張ります!」

 いまだに頭を下げたままの名無しは、元気よく返事をする。「もう下がれ」とフレミング侯爵に言われて、名無しはいつも通り私室となっている物置部屋で一夜を過ごした。



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