冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
「はい……承知いたしました」

 どんな罰を受けるのかと、名無しは書類を恐る恐る読んでいく。しかし、その書類はどう見てもこの場にふさわしくないものだ。

「え、あの、これは婚姻宣誓書です。正しい書類をお願いいたします」

 初日にアリッサの名前でサインしたものと同様の婚姻宣誓書と、結婚についての契約書が渡されたのでシルヴァンスに訴える。こんな場面で間違えるなんて、名無しが身代わりだと知ってよほど衝撃を受けたのだと申し訳なく思った。

「それで間違いない。君の名前でサインしろ」
「あの、私はシルヴァンス様を騙した罰を受けるのではないですか?」
「公爵家当主の僕と結婚して、役目を果たしてくれれば問題ない」

 名無しは、最初に契約結婚を持ちかけられた時のことを思い浮かべる。

『二年間、白い結婚を続けてくれたら、君は罪を償ったものとして離縁する。もちろん、その後の生活も保障しよう』

 シルヴァンスは確かにそう言っていた。

(それに、シルヴァンス様は王命に迷惑しているともおっしゃっていました……)

 ということは、シルヴァンスにしてみたらアリッサだろうが名無しだろうが、とにかく妻を(めと)って子供が作れなかったと言い訳できればよいのだ。それなら、すでに了承を得ている相手と契約を結び直せば確実で無駄がない。

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