冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
「下の赤子はいずれ奴隷にするとして、それまでは屋敷の離れに隠しておくか……」

 最近では人身売買や捨て子に対して国から厳しい調査が入るため、モーゼスには双子の二番目を奴隷にするしか選択肢がない。

 ベリンダが騒ぎ立てたことで双子を身籠ったと使用人たちに知られたので、モーゼスは魔法を使った契約を結び、決して口外できないようにした。

 こういった契約事に魔法を使うのは貴族の特権でもあり、重要な契約の際にはよく用いられている。他にも炎や氷、風や雷などの魔法があり、極一部の貴族は強大な魔力を保有していた。

 やがてベリンダが元気な双子の女児を出産したのは、春が終わる頃だ。

「おお! なんとかわいらしい娘だ! ベリンダの真紅の髪と私の()(はく)の瞳を持った美女になるぞ!」
「ふふっ、名前はどうしましょうか?」
「ずっと考えていたのだが、美の女神アリーネにちなんでアリッサはどうだ?」
「まあ、素敵! アリッサ、あなたが生まれてくれてとっても(うれ)しいわ」

 モーゼスとベリンダは、長女だけを腕に抱き名前を付ける。もうひとり産んだ赤子のことは、最初からなかったかのように振る舞っていた。

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