milk or coffee? 〜甘く、苦く、溶かされて〜
季節は、もうすぐ12月。

わたしは上着を羽織ると、軽い足取りで部屋を出た。



あれだけ頻繁に通っていたというのに、久しぶりの『Gemini』となると、なぜかドキドキしていた。


遥さん、わたしのこと…忘れたりなんてしてないよね?


顔と名前を覚えてもらって、家まで送ってもらったこともあるというのに、一瞬そんな不安がよぎった。


まるで秘密基地へ続くトンネルのような狭い通りを入って、開けた中庭へ抜ける。

お店の引き戸のドアプレートには【OPEN】の文字が。


わたしは、こそっと窓の格子の隙間から中をのぞいた。


お客さんは…、いない。

でも、キッチンに人影が見える。


…遥さんだ!


わたしは、お店の引き戸に手を伸ばした。


「…お邪魔しま〜す。お久しぶりです」


ペコペコと頭を下げながら、少し遠慮がちに入る。
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