執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
第五章 俺の愛しい黒猫
三十分経つと美都は起き出し、シャワーを浴びに行った。
手早く済ませたようで、六時には生乾きの髪のままリビングでヨガを始める。
すらりと天に伸びる腕、しなやかな腰、柔らかな股関節、足の指の先まで緊張が行き渡り、凛としている。
それを無心で見つめるこの時間が、最近の哉明のお気に入りである。
(相変わらず、美しいな)
芸術作品のように繊細で麗しく、アスリートのようにストイック。
求婚した理由は様々あるが、本能的に彼女が欲しいと感じたのは、こうやって時折見せる真剣な表情に惹かれたからだ。
(真っ直ぐで、ひたむきで、懸命に生きている。それがこのしなやかな姿勢に現れている)
スポーツは生き様を表すと哉明は思っている。地道に努力を積み重ねられる人間は、それが競技への向き合い方に現れるのだ。
かくいう哉明も高校時代は水泳で都大会に出場した。受験のために辞めてしまったが、今でも泳ぐと真っ新な気持ちに戻れる。
気がつくと六時二十分。美都がヨガマットを片付けながら哉明を睨む。
「またずっと見ていましたね」
「綺麗だったからな」
「お世辞ばっかり、困ります」