執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない

いい意味で。心中で悪態をつきながらも顔が綻ぶ。彼女は哉明のささやかな日常を幸福に変えてくれる。

「素直だよな、お前は」

「え……? そうですか?」

「ああ。わかりやすい」

わかりにくいと言われることの方が多いのだろう、彼女は首を傾げている。

(俺だけわかればそれでいい)

「ごちそうさま」

食器をキッチンに運び、ざっと洗い流したあと食洗器に放り込む。

「あとは私が――」

「このくらいはできる」

せめて彼女の負担が減るように務めたあと、身支度を整え家を出た。



哉明が警察官になりたいと思ったのは、幼い頃に巻き込まれた事件が原因だ。

家に強盗が押し入り、五歳の哉明と母親を人質に立てこもった。母親は哉明を庇い怪我を負い、今も首筋に大きな傷跡が残っている。

その傷が目に入るたびに哉明は固く決意する。犯罪者は絶対に許さない、大切な人たちをこの手で守りたいと。

同時に、哉明に大きな影響を与えた人物がいる。叔父の獅子峰竜次、現警視総監だ。

幼い哉明から見て、警察官である叔父は英雄だった。母を傷つけた犯人を捕まえてくれたのも、当時捜査本部にいた叔父だった。


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