執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
美都はほとんど酒を飲まない。本人に聞いても、嫌いではないが好きでもない、あえて飲む必要はないというドライな返答が来ただけだった。

はずなのだが――。

「……少しだけ、いただきます」

どんな心境の変化だろう、空のグラスを持ってやってきて、哉明の隣に座った。

ソファにこうやって横並びになるのも、美都からは来るのは初めてだ。

(警戒心の強い猫が、ようやく俺に懐いた)

「お前、とことんかわいいな」

「は? なんです、急に?」

「いや。こっちの話だ」

そう言って缶を持ち上げ、美都の手の中のグラスに注ぐ。

「ほんのちょっとでいいです」

「遠慮すんな」

「って、全部注いでるじゃありませんか」

「飲めなかったら飲んでやる」

美都は戸惑った顔でグラスを見つめていたが、覚悟を決めたのかぐいっと喉に流し込んだ。

ごくごくと気持ちのいい音を鳴らし、ぷはっと息をつく。

「いい飲みっぷりだな」

「ハイボールを、生まれて初めて飲みました」

「そうなのか?」

「家でお酒は飲みませんし、外では人に付き合ってビールを一杯いただくくらいなので」

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