執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「それは……」

大須賀が目線を逸らし口ごもる。なにかを隠している?――そんな気がしたのは、美都の考えすぎだろうか。

「だいたい一捜査員ではなく、副隊長が直々に足を運ぶなんて、滅多にありませんよね? なにかあったと考えるのが普通です」

すると、柳川は困ったように微笑んで手を差しだした。

「紛らわしい言い方をして申し訳ありません。別室であなたの婚約者殿がお待ちです。ご足労いただいてよろしいでしょうか」

え、と美都が声を漏らす。哉明もここに来ているのだろうか。

大須賀は納得せざるを得なかったらしく「そういうことでしたら」と引き下がる。

背中を向けて歩きだす柳川。あとを追いかけながら美都は「失礼します」と大須賀に一礼する。

大須賀は不承不承といった顔で敬礼し、ふたりを送り出した。



案内されたのは十五階にある応接室。四年間ここに通っている美都ですら初めて入る場所で、品のいいソファとローテーブルが置かれていた。おそらく客を迎えるために使う部屋だろう。

そして、ソファにはスーツ姿の男性がひとり。

目が合うなり、柳川はこれまでの凛とした態度から一転、げんなりと肩を落とした。

「それで。どうして獅子峰さんが来ているんですか?」

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