執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
(哉明さんが私と婚約してくれたのは、品行方正だったから。でも問題を起こすような女だと思われたら、私は無価値だ)

もしかしたら哉明の方から、婚約を破棄してほしいと頼んでくるかもしれない。

(それは……嫌)

胸がぎゅうっと押し潰される感じがして、背中を丸めた。

哉明に捨てられたくない、そばにいたい、妻でありたい、いつの間にかそんな欲が湧いていたと気づいて眩暈がした。

(私、こんなに哉明さんと結婚したいって思ってたんだ……)

愕然としたままオフィスに戻り、不安をごまかすように仕事をした。



その日、帰宅したのは十九時過ぎ。

とにかく手を動かさなければ落ち着かず夕食を作る。

料理の段取り以外は頭に入ってこないように、あえて手間のかかる料理を一品、二品、三品と作り上げていった。

気がつくと四人がけのダイニングテーブルではお皿が載りきらなくなっていて、広いローテーブルに移した。

牛筋煮込みに酢豚、グラタンにチャプチェ、根菜の煮物。どんどん大皿料理が完成していく。パーティーが開ける量。なのに哉明は帰ってこない。

< 174 / 257 >

この作品をシェア

pagetop