執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「それなら獅子峰さんにキャンセルのお電話をして、別の日に――」

「そ、それは失礼よ! とってもお忙しい方なのっ」

なぜか焦ったように杏樹が制止する。

「美都ちゃんは先に行って。私も治り次第、すぐに向かうから」

「……はあ。それはかまいませんけど……本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫! 隼都さんもそばにいてくれるし、心配はいらないから」

強引に送り出され、美都はひとりに哉明との待ち合わせに向かった。

場所は都内にある格式高いホテルのラウンジ。エントランスに足を踏み入れた瞬間、その高級感に気後れした。

自分が来ていい場所ではない、そんな気すらする。

(お義母さんならともかく、私にこういうのはちょっと……)

一応、美都も社長令嬢ではある。

子どもの頃は私立の小中学校に通っており、それなりにお嬢様らしくしていたが、就職した今ではごく普通の会社員。令嬢感は皆無である。

もちろん、こういった場所にも慣れていない。

幾度が深呼吸して自身を落ち着かせながら、気合いを入れてラウンジの受付スタッフに声をかけた。

「すみません、喜咲と申しますが」

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