執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
腫れた目を隠すために哉明から借りたサングラスは、オーバーサイズでかなりいかめしい。さらにキャップを被っていて、まるで不審者だ。

「お忍び感があっていいだろ。顔を隠して深夜に婚姻届を出しにくるなんて、どっかの芸能人みたいだ」

「キャップとサングラスを外したらがっかりされますよ」

「外さなきゃいい」

「哉明さんはスーツだから余裕でいいですよね」

無駄口を叩きながら、ふたりは区役所の時間外窓口へ向かった。粛々と婚姻届を提出し、あっさりと手続きを終える。

これで晴れて夫婦だ。美都は今日から『獅子峰美都』になる。

帰り道の車内で、美都は「本当によかったんですか?」と恐る恐る尋ねた。

「もちろん。後悔なんかない」

哉明はハンドルを握りながら、清々しい声で答える。

「これでようやく夫婦と名乗れるな」

これからは〝婚約者〟ではなく〝夫〟、〝主人〟と呼ばなければならない。なんだか不思議で誇らしい気分だ。

「そういや、リビングにすごい量の食事が並んでいた気がするが」

「あれは……すみません。じっと待っていられなくて」

「美都は不安になるとご馳走を作ってくれるのか」

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