執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「強いて言えば、この艶やかな黒髪は気に入っている」

毛束をひと房持ち上げ、キスを落とす。

「……じゃあ、染めないようにします」

ぽつりと呟き、美都は再び雑誌に目線を落とす。

哉明はふっと笑みをこぼして立ち上がり、シャワーに向かった。



翌日、美都はヘアアレンジを変えた。うしろで結んだ毛束をくるりと捻ってピンを差し、バレッタで止めたのだ。

ピンとバレッタは杏樹からの贈り物。ずっと大事にしまっておいたがようやく日の目を見られてよかった。

「雰囲気、変わったな。よく似合ってる」

朝、リビングで顔を合わせた哉明が驚いた顔をする。

「髪を切るのはやめました。私の場合は長さがあるので、ヘアアレンジをすれば印象を変えられます」

そう答えてヨガマットを広げると、哉明が不思議そうに尋ねてきた。

「今からそんなにしっかり髪型作って、大丈夫なのか? 着替えたら乱れるだろう」

美都はマットの上で胡坐をかきながら、目線を逸らして答える。

「……この髪型を見せたい人が勤め先にいるわけではないので。乱れたらそれはそれで」

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