執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
髪が固くて留めてもすぐ落ちてくると相談したら、崩れないピンの差し方を教えてくれた。

(ヘアアレンジは、意外と奥が深い……)

ピンの角度ひとつで安定感がこんなにも変わるとは。それを日々研究する鶴見にも頭が下がる思いだ。

彼女いわく、もっと留めやすいバレッタもあるそうで、バリエーションを増やしてみてもいいかなと思っている。

(ヘアアクセなんて、考えたこともなかったな)

『もったいない!』――杏樹の言葉の意味が、今ならよくわかる。

世界は自分の視野よりずっと広く、いろいろな人、価値観が存在している。確かに知らないままひとりで生きていくのはもったいない気がした。

(哉明さんが私の世界を広げてくれた)

この先の未来には美都の知らないものがたくさん待ち受けているだろう。それが楽しみでもある。




その日、定時過ぎに仕事を終えて庁舎を出た。

夕方のこの時間、多くの会社員が駅に向かって歩みを進めている。

大使館や外資系企業も多いこの地域、人種は多様だ。暑さの残るこの時期にきっちりとスーツを着込んでいる品のいい男性なんかは、官庁系の施設に勤めているのかもしれない。

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