執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「それは私怨です。〝組織〟としては、別の目的があります」

大須賀がナイフを持つ方とは反対側の手で携帯端末をかざす。画面に表示されていたのはネットのニュースだ。

【企業のサイバー攻撃被害件数、この夏過去最高に 組織的犯罪か】

覚えのあるニュースだった。まさかこれらの事件に――サイバー攻撃をするような犯罪組織に大須賀が関わっているというのだろうか。

「どうしてですか。市民を守る警察官なのに、なぜ」

「だからこそです」

携帯端末をしまった大須賀は、再びナイフに意識を集中させ、美都にあてがった。

「この国を正すためです。日本企業、警察組織、国家――いずれのシステムも脆弱すぎる。僕らのような、素人に毛の生えた程度のハッカーでも簡単に破れてしまうセキュリティなんです。公になっていないだけで、実際は多くの個人情報や国家機密が他国に抜き取られている。日本は搾取されているんですよ」

大須賀が興奮気味に語る。こんなに熱弁を振るう彼を、美都は初めて見た。

「警鐘を鳴らす必要がある。僕らは必要悪なんです」

怒りと喜びが入り混じる声。

狂気としか思えないその感情に、美都は倫理が通じない相手だと直感した。


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