この結婚は運命ですか?~エリート警視正は清く正しい能面女子に首ったけ~
第八章 彼にだけ許す表情
「喜咲さんはすごいですね。刃物を向けられても、動じず毅然としている」

いまだ銀色の刃は首筋に押し当てられたままだ。美都はなんとか声を絞り出す。

「そう見えているだけです」

「とても冷静に見えますが。そういうところがキャリア警察官のお眼鏡にかなったんでしょうか」

「それは違うと思います」

哉明なら美都の顔色を読んで、怯えているとすぐに気づくだろう。

「冷静な女には見られていないので」

「夫にしか見せない顔がある、ってことでしょうか。喜咲さんにとって、かけがえのない方なんですね」

大須賀が寂しげに笑う。

「それが警察官だなんて、とても残念です」

背後でカチッとボタンを押す音が聞こえて、同時に正面の車のライトが点滅した。

ロックが解除される音だったらしい。美都を連れてどこかへ行くつもりだろうか。

「私を人質にしてどうするんですか?」

「正直言って、やけくそな面が大きいです。捜査の手は伸びてきているので、僕が捕まるのは時間の問題かと。だったらせめて、大きな事件にして世間の注目を集めたい」

「それも『この国を正すため』ですか?」

「そっちは私怨かな。裁きたい人がいるんですよ。世間の注目を集めれば、マスコミが裁いてくれるでしょうから」

「裁きたい人……」

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