執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
そのとき、道の向こうから足音が響いてきた。大須賀が車の陰に美都を引きずり込む。

しゃがんで様子を見ていると、長身の男性が駐車場の前で足を止め、落ちていた美都の携帯端末を拾い上げた。

こちらを向いた男性の顔が街灯に照らされて、くっきりと夕闇に浮かびあがる。

(哉明さん……!)

その時、背伸びをした美都の足もとで、じゃりっと石を踏む音が鳴った。

大須賀が「チッ」と舌打ちし、美都を強く拘束する。

「美都? そこにいるのか?」

哉明がゆっくりとこちらに近づいてくる。堂々と歩く姿から、こちらを警戒している様子はうかがえない。

凶器を持った人間が潜んでいるとは予想もしていないのか、あるいはあえて誘わせているのか……。

大須賀は耳もとで「勝手なことはしないで」と念を押すと、背中にナイフを押し当てたまま、美都を連れて立ち上がった。

薄暗い駐車場。車の陰で動くなにかに気づき、哉明の視線がこちらに移る。

「美都! そんなところにいたのか。……その人は?」

近づいてくる哉明に大須賀は「止まれ」と威嚇し、美都を背後から抱きかかえて首筋にナイフを当てた。

「っ、どういう、ことだ?」

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