執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
狼狽した哉明が足を止める。大須賀は「白々しい演技をしないでください」と冷ややかに吐き捨てた。

「こうなると予想してここに来たんでしょう? CITの隊長さん」

哉明は顔を知られていたことに驚きながらも、抵抗するつもりはないらしく、すぐに両手を挙げた。

「俺は美都と連絡が取れなくなったから、心配して来ただけだ。このGPSを頼りに」

落ちていた携帯端末を見えるように振りながら、緊張感の漂う声で言う。

「取引をしよう。美都を解放してほしい。その代わり、君のあとは追わない」

「どうせ外に大量の捜査員を配備しているんでしょう? 逃げられやしないと踏んでいる、違いますか?」

哉明は無表情のままだ。

なんとなく、大須賀の言う通りなのだろうと美都は思った。無策で乗り込んでくるような人だとは考えられなかったからだ。

「今朝、警視庁内の僕の端末に外部から侵入した形跡がありました。気づかないとでも?」

「……そこまでわかっているなら、なおさら投降してくれ。君は思想犯だ。こんな罪の重ね方をするのは不本意だろう」

哉明が腕を下ろし演技をやめる。最初から大須賀と交渉するつもりで、ひとり乗り込んできたようだ。

「僕には僕の目的がある。彼女を解放するわけにはいかない」

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