執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「それは鎌亀洋一への復讐か?」

大須賀はその人物に覚えがあったようで、身を強張らせる。

ナイフの切っ先を美都から哉明に移し、忌々しく吐き捨てた。

「あの男は無実の母に拷問のような聴取をした。その日の夜、母は心臓発作で亡くなり、全身にできた痣は病院関係者によって隠蔽された。妹も母のあとを追うように心臓病で亡くなって、以来、ふたりの無念を晴らすことだけを考えて生きてきたんだ。似たような思想を持つ連中と手を組み、敵の懐に潜り込むためだけに警察官になった」

「お前の言い分はよくわかった。だが、それこそ美都は無関係だろう。お前にはお前の正義があって、矜持があるはずだ。こんなところで無意味な罪を重ねるな」

「意味はある。僕があの男を裁けなくても、マスコミが裁いてくれる。大きな事件になればなるほど、世間は被疑者の生い立ちに興味を示すはずだ。僕の過去を調べ上げれば、鎌亀の名前も出る」

憎々しげに言い放つ大須賀から目を逸らさぬまま、哉明は耳に手を持っていった。

はめていた小さな透明の塊――無線イヤホンのようだ――を取ると、落として足で踏みつける。

じゃりっという、プラスチックが砕けた音がした。

「なにを……!」

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