執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「お前たちキャリア組は出世しか考えていない。喜咲さんを手放すことで手柄が立てられるなら本望だろう。どうせ女なんて、綺麗な駒くらいにしか思っていないはずだ。替えだっていくらでもいる、そうじゃないのか?」

大須賀が挑発するように鼻で笑う。

その言葉が美都の胸をじわりと抉っていた。心の奥に不安という名の闇が広がっていくのを感じる。

哉明は美都より出世を選ぶだろうか。それがキャリア警察官としての正しい選択なのかもしれない。それが彼のためになるのならと、美都も腹を括る。

しかし――。

「その条件には乗れない」

哉明が一蹴した。揺るぎなく冷静な目で、淡々と大須賀に告げる。

「美都は譲れない。妻を天秤にかけなきゃならない手柄なら辞退する」

(哉明さん……)

出世よりも妻を選ぶ――美都は心の中で『どうしてそんなことを』と非難する反面、安堵していた。

哉明からの確かな愛を感じる。あのプロポーズの言葉は本物だった。

「名簿などもらわなくても、自力で全員捕まえてみせるさ。美都、ゆっくりこっちに歩いてこい」

哉明がこちらに手を伸ばす。美都は指示されるがまま、一歩、二歩と歩き出し、応えるように手を伸ばした。

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