執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
美都の顔は能面のように張り付いて動かなくなった。緊張の最終形態だ。

しかしこうなるとき、周囲からはポーカーフェイスに見えているそうで、よく「肝の据わった女」「常に沈着冷静」などと形容される。

「ご無沙汰しております。喜咲美都です」

沈黙を埋めるかのように、美都は再び一礼する。

ふと荷物入れにある紙袋を思い出し、立ち上がって彼に差し出した。

「十二年前はありがとうございました」

杏樹が用意してくれたその手土産は、老舗の紅茶とお菓子のセットだそうで、かなり高級なものらしい。

「俺はなにもしてない」

男性は立ち上がり紙袋を受け取ると、美都の肩に手を置いて、座るように促した。

触れられた瞬間、膝の力が抜けて、すとんと椅子の上に尻もちをつく。

「こんなたいそうな品はもらえない」

そう言って、美都の膝の上に再び紙袋を置く。

受け取りを拒否された――美都は紙袋を抱いたまま慌てる。

「で、ですが。痴漢から助けてくださいました」

「まあ、よくあることだ」

「よくは……ないんじゃないでしょうか」

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