執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「そうか? 最近は電車に乗る機会自体がめっきり減ったが、学生時代は幾度か助けた覚えがある。それだけ痴漢が多い世の中ってのは、嘆かわしい限りだが。働きがいがあるな」

そう言って悠然と腕を組む彼。

女性のピンチを何度も救っている――まさにヒーローだなと美都は思った。

だが、彼にとってはそれが日常茶飯事。

(私は彼が助けた大勢の人間のうちのひとりでしかない)

こちらがどれだけ恩を感じていようとも、向こうは助けたことすら覚えていないのだ。

そう考えると、どこか寂しい気持ちになった。……が、かといってお礼を引き下げるのもおかしな話だ。

「獅子峰さんが覚えてらっしゃらなくても、助けられた事実は変わりませんから。とにかく感謝を受け取ってください」

座ったまま再び紙袋を差し出すと、哉明は面食らった顔をして、しかしすぐに口の端を跳ね上げた。

「頑固だな。まあ、了解した。ありがたくいただいておく」

これ以上拒んでも平行線だと踏んだのか、ようやくお礼を受け取ってくれる。

「義母も直接お礼をしたがっていたのですが。急遽来られなくなってしまい、申し訳ありません」

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