執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「美都ちゃんたら、手の擦り傷がまだ痛むみたいなの。髪や体を洗うときに困るだろうから、手伝ってあげてね」

そのひと言に隼都はかちんと凍りつき、哉明も人当たりのいい笑顔のままフリーズした。

それはつまり、一緒にお風呂に入ってやれということか。最後になんてとんでもない爆弾を投下してくれたのだろう、彼女は。

「お、お義母さん!!!」

助手席で非難の声をあげる。対して哉明は笑顔のまま「お任せください」と答えた。

隼都はあきらめたのか、空を見つめたまま目を閉じた。現実から逃げ出したいときに目を閉じるくせは娘と同じだ。

「じゃあね、気をつけていってらっしゃい」

笑顔の杏樹と、遠い目をした隼都に見送られ、車が都心に向かって走り出す。

目指すは表参道、婚約指輪をオーダーしたジュエリーショップだ。

両親たちの姿が見えなくなったあと、美都はただでさえ低めの声をいっそう低くして運転席の哉明に告げた。

「哉明さん。擦り傷は完治しておりますので、お気遣いなく」

「だが、お義母さんにああも言われたらな。約束を守らないわけにはいかないだろ」

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